Updated 2025.07.01
喫泡「うたかた」のランチタイムを彩る名物「わっちゃんの育てた豚の生姜焼き」。
賄い料理でしたが、「こんなに美味しいならお客様にも食べてもらいたい!」というスタッフの熱い声から、瞬く間に正式メニューへと昇格しました。
一口食べれば、誰もが「おいしいー!」と声をあげるこの豚肉。なぜ、これほどまでに美味しいのか?その秘密を探るべく、養豚農家、わっちゃんこと工藤渉さんの元へ向かいました。
久住の大地で育つ家族

お邪魔したのは、竹田市久住町にあるグリーン牧場。車を降りると目の前には、雄大なくじゅうの南面が広がり、美しい緑が青々としています。この豊かな自然に囲まれた山里で、450頭もの豚が育てられているそう。
「ピンポーン」
玄関から顔を出したのは出荷作業で忙しいわっちゃんではなく、可愛らしい笑顔のお母さんでした。
ユーカリオ、オーナーのくわまん(桑島孝彦)とわっちゃんは同級生。だから、わっちゃんのお母さんとも顔見知りです。まずお母さんに、この場所で養豚を始めたきっかけを聞きました。
「私とかは、二頭から始めたけどな、お父さんと。」
なんと、現在の広さからは想像もつかない、わずか2頭からのスタート。昭和54年、ご主人が近所の親戚から譲り受けた2頭の豚から、グリーン牧場の物語は始まりました。当時は水道も電気もない開拓地。かやぶき屋根の材料になる『カヤ』が生い茂るだけの土地だったといいます。その土地を自分たちの手で切り開き、水道を引き、いちから築き上げてきました。わっちゃんが子どもの頃は風呂がなかったとか。
借金返済の苦労を振り返りつつも、「今になったら苦労じゃないわ。面白かった。」と笑顔で語るお母さん。そのたくましい横顔には、「やりながら学ぶ」自然と共に生きる覚悟と、家族で乗り越えてきた絆の深さが感じられました。
お母さんの苦労話を聞いていたからか、ご主人の趣味が飛行機の操縦と聞いて、さらに納得です。きっと、その大空をかけるマインドが、今ある景色を作り出したのでしょう。開拓精神とは、まさにそういうことなのかもしれません。
久住の大地で育まれる「おいしい」の源泉
お母さんとの話も縁もたけなわ、出荷作業を終えたわっちゃんが合流しました。事務所には、家族の写真が載ったポップが並びます。
「これはギフト用に加工肉を作ってた時のもの。今はもうやってないですね。本音を言えば、加工品よりそのまま肉で食べてほしい。塩胡椒で焼くだけで、脂の旨さが一番わかりますから」とわっちゃんは言います。
「健康な豚は美味しい。本当に、それだけなんですよ。」
お母さんも「ブランド豚とかは考えていない。健康に育てれば、どこの豚でも美味しい」と頷きます。この「健康」への徹底したこだわりこそ、グリーン牧場の原点であり、これが「美味しさ」の源泉です。
豚にとって一番のストレスは「温度差」。ここ久住町は、夏は涼しいものの、山からの冷たい風が吹き下ろす場所です。「豚は温度差が一番悪い。安定した環境がいい」。日々の細やかな観察と管理は欠かせません。見えない手間を惜しまない姿勢が、豚の健康を支えています。
飼料にも、並々ならぬこだわりと時代の変化への挑戦があります。「栄養価が高い飼料でないと、美味しい肉にはならない」と考えるわっちゃん。しかし、海外からの飼料供給は不安定で、品質への懸念も拭えません。そんな中、地域では竹炭を飼料化し腸内環境を改善する試みや、昔ながらのトウモロコシの原種を復活させる動きも始まっています。「残飯などを食べさせると肉に臭みが出るし、人が食べられないようなものなんて論外です」。豚も人も、口にするものが体を作る。その真理に真摯に向き合っています。


「おいしい」って、なんだろう?
もしかしたら、それは私たちが生きる上で欠かせない、命の恵みを、本能的に感じ取ってるのかもしれません。というのも、私たちの身体は、約1年でほとんどの細胞が入れ替わる「動的平衡」という状態にあり、常に他の命を取り込むことで、自らを更新し、維持しているからです。
豚たちがより健康に育つよう全力を注ぐわっちゃんを見ていると、この世界は、様々な命の繋がりで共に生きているんだ。。。そう感じずにはいられません。
お母さんがお茶請けにだしてくれた、自家栽培野菜を使った漬物の滋味深い味わいもまた、その丁寧な暮らしから生まれる「美味しさ」です。これも、効率や規模だけでは決して辿り着けない、「美味しさ」の源泉ではないでしょうか。
ぜひ、わっちゃんの豚肉を味わってみてください。そして、あなたなりの「おいしい」を感じ取ってみてください。

私たち「EUKARYOTE(ユーカリオ)」は、「食・仕事・自然とのつながり」を軸に、互恵的な共生を実践・創造する場です。わっちゃんのような地域の宝となる生産者の方々と共に、食を通じて「すごい!」という感動や知的な驚きを共有し、競争ではなく協調による豊かな社会を創造していきます。
text & photograph: Tomokazu Murakami